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薬剤別脱毛リスク比較:DHT変換と頭皮AR刺激

この記事では、AASとSARMsの主要な薬剤を並べ、脱毛リスクと5αリダクターゼ阻害薬の効きやすさを比較します。フィナステリドやデュタステリドの薬理は5αリダクターゼ阻害剤の選び方で詳しく説明しています。

AASやSARMsでハゲるのか?

AASやSARMsの使用で必ず脱毛が起こるわけではありません。しかし、これらの薬剤の使用は、頭皮の毛包にあるARへの刺激を増やすので、基本的に脱毛は進行します。ただ、頭皮の毛包のAR感受性は個人差が大きいので、実際に抜け毛が進行するかどうかは人それぞれです。[1][2]

また、AASやSARMsの使用による脱毛リスクは個人差だけでなく、薬剤によっても大きく変わります。
以下のセクションで、AASやSARMsによる脱毛の加速リスクを薬剤別に比較・解説します。

薬剤選択で変わる脱毛リスク

脱毛リスクを下げる最短ルートは、頭皮AR刺激の強い薬剤をサイクルから外すことです。
テストステロン主軸ではDHT生成を下げる余地がありますが、DHT誘導体やトレンボロンでは薬剤選択そのものが主なリスク要因です。

  1. テストステロン主軸:
    フィナステリドやデュタステリドでDHT生成を下げる余地があります。乳腺症状との関係はフィナステリドと女性化乳房の仕組みで説明しています。
  2. DHT誘導体中心:
    ドロスタノロン、メテノロン、スタノゾロール、メステロロンでは、5αリダクターゼ阻害薬より使用回避や薬剤変更が主な対策になります。
  3. 19-nor系中心:
    ナンドロロンは5αリダクターゼ阻害薬との相性に注意し、トレンボロンやメトリボロンは強いAR刺激薬として評価します。

脱毛リスクを左右する4つの経路

AASやSARMsによる脱毛は、単に「アンドロゲンが増える」ことだけが原因ではありません。大きく分けて4つの異なる経路が存在します。
[2][3]

テストステロン系

最も一般的な経路です。AASを利用していない場合の脱毛もこれが原因です。テストステロンが、5αリダクターゼによってDHTへ変換され、頭皮の毛包のARに結合することによって起こります。テストステロンをサイクルで使用すると、使用量に比例してDHT量が増えるため、脱毛リスクは高まります。[4][2]
この経路ではフィナステリドなどの5αリダクターゼ阻害薬が主な対策薬になります。[5][6]

DHT系

ドロスタノロン、メテノロン、オキサンドロロンなどのDHT由来のステロイド特有の経路です。これらはDHTを元にデザインされた薬剤で、直接ARと結合するので、5αリダクターゼ阻害薬で脱毛リスクを低減することはできません。[3]

ただ、各ステロイドの物性によってAR結合性が異なるので、DHT誘導体のステロイドだから必ず脱毛しやすいというわけではありません。

19ノルテストステロン系

ナンドロロンなどの、19-nor系ステロイド特有の経路です。5α還元でジヒドロナンドロロン(DHN)の構造に変わることで、AR結合性が下がります。5α還元でAR結合性が高くなるテストステロンとDHTとは真逆の作用になります。[3]

そのため、ナンドロロン単体の脱毛リスクはテストステロンやDHT誘導体より低いですが、5αリダクターゼ阻害薬を使用すると逆効果になります。一方で、トレンボロンなどの、AR結合性が高いステロイドも存在するので注意が必要です。[3][7]

SARMs

SARMsはAASではないですが、ARに作用するため脱毛リスクはあります。DHT誘導体同様に、直接ARと結合するので、5αリダクターゼ阻害薬で脱毛リスクを低減することはできません。[8]

薬剤別の脱毛リスク比較表

この表は、薬剤構造、5α還元の有無、DHT誘導体かどうか、AR刺激の強さ、既存文献でのアンドロゲン作用の記載を合わせた実務上の分類です。[3][1]

分類判定の目安
極めて高い強いDHT様作用または非常に強いAR刺激があり、5αリダクターゼ阻害薬で守りにくい。
高い頭皮AR刺激が強い、またはDHT生成が増えやすく、AGA素因がある人では進行しやすい。
中程度単体では極端ではないが、用量、スタック、期間、体質で脱毛が問題になる。
低めアンドロゲン作用が比較的弱い、または頭皮で弱い代謝物へ寄る。ただしゼロではない。

テストステロン系

テストステロン系ではDHT生成が主要な論点になります。5αリダクターゼ阻害薬が噛み合う薬剤もありますが、用量、濃度の山、薬剤固有のアンドロゲン作用でリスクは変わります。

薬剤名脱毛リスクAAR5αリダクターゼ阻害薬特徴・詳細
テストステロン(各エステル)高い100 : 100有効高用量ではDHT生成量が増え、AGA素因がある人で脱毛を進める。[1][4]
メチルテストステロン高い94–130 : 115–150一部有効経口活性を持つテストステロン系で、アンドロゲン副作用とE2関連副作用が出やすい。[3]
メタンジエノン(ダイアナボル)高い90–210 : 40–60限定的強い同化作用とエストロゲン作用が目立つが、頭皮ではアンドロゲン刺激も残る。[3]
フルオキシメステロン(ハロテスチン)極めて高い1900 : 850限定的アロマターゼ変換を受けにくい強いアンドロゲンで、頭皮リスクは高い。[3]
ボルデノン中〜高100 : 50一部有効テストステロンよりアロマ化は弱いが、長期使用・高用量では総アンドロゲン量が問題になる。[3]
クロロデヒドロメチルテストステロン(トゥリナボル)中程度100+ : 0(理論値)限定的アロマ化しにくく、強いDHT薬ほどではないが、経口AASとして頭皮リスクは残る。[3]
クロステボル中程度不明(M/A比 0.62)限定的4-chloro修飾でエストロゲン活性は抑えられるが、アンドロゲン薬として毛包感受性の影響を受ける。[9]

DHT系薬剤

DHTそのもの、またはDHT由来の薬剤は、5αリダクターゼ阻害薬で守りにくいグループです。脱毛素因がある場合、薬剤選択そのものがリスク管理になります。

薬剤名脱毛リスクAAR5αリダクターゼ阻害薬特徴・詳細
ジヒドロテストステロン極めて高い58 : 30不適DHTそのもので、テストステロンより強くARに結合し、アロマターゼでE2へ変換されない。[2][10]
ドロスタノロン(マステロン)極めて高い62 : 25不適DHT由来でアロマ化せず、頭皮ではDHT様のAR刺激が残る。[3]
メステロロン(プロビロン)極めて高い100–150 : 30–40不適DHT由来でアロマタイズしない。筋肥大薬としては弱くても、頭皮AR刺激は軽く見ない。[3]
スタノゾロール(ウィンストロール)極めて高い320 : 30不適DHT由来で水分貯留は少ないが、皮脂・頭皮刺激が問題になりやすい。[3]
メテノロン(プリモボラン)高い88 : 44–57不適全身副作用は軽く見られやすいが、DHT由来で頭皮ではリスクが残る。[3]
フラザボール高い100–150 : 19–27不適5α-androstane系で、DHT変換を前提にしないDHT系リスクがある。[11][1][12]
ジメサジン高い210 : 95不適DHT由来でエストロゲン変換はないが、頭皮AR刺激は残る。[3]
オキシメトロン(アナドロール)中〜高320 : 45不適DHT由来だが、脱毛より水分貯留・ER刺激型副作用が目立つ。AGA素因がある人では頭皮リスクも残る。[3][13]
オキサンドロロン(アナバール)低〜中322–630 : 24不適DHT由来だがアンドロゲン作用は比較的弱く、脱毛面ではDHT系の中で軽く見られやすい。[3]
エピティオスタノール低〜中1100 : 91不適抗エストロゲン作用が注目される薬剤だが、DHT由来薬として頭皮リスクはゼロではない。[14][3]

19-nor系薬

19-nor系は、ナンドロロンのように頭皮で弱い代謝物へ寄る薬剤と、トレンボロンのようにDHT変換とは別に強いAR刺激を持つ薬剤で大きく分かれます。

薬剤名脱毛リスクAAR5αリダクターゼ阻害薬特徴・詳細
トレンボロン極めて高い500 : 500不適DHT誘導体ではないが、AR結合が強く、5α還元を抑えても主因は消えない。[3][7]
メトリボロン極めて高い12000 : 6000不適R1881としてAR研究にも使われるほど強いリガンドで、脱毛・ニキビなどのアンドロゲン副作用が極めて強い。[3]
ミボレロン極めて高い4100 : 1800不適強いアンドロゲン性とプロゲスチン作用を持つ短期刺激薬で、頭皮リスクを管理しにくい。[3][15]
トレストロン(MENT)高い2300 : 650不適7α-メチルエストラジオールへのアロマ化に加え、強い19-nor系アンドロゲンとして頭皮負担がある。[3]
ノルエタンドロロン中程度100–200 : 20–40不適アンドロゲン作用はテストステロンより抑えられるが、19-nor系として用量と併用薬で評価する。[3]
エチルエストレノール中〜低200–400 : 20–40不適アンドロゲン作用が低く設計された薬剤で、頭皮リスクは強アンドロゲン薬より低い。[3]
ナンドロロン(デカ)低め125 : 37併用注意5α還元で弱いDHNへ寄るため頭皮では比較的扱いやすいが、5αリダクターゼ阻害薬併用でこの利点が崩れる。[3]
ジメチルナンドロロン(DMAU)低〜中不明(テストステロンの136倍の同化作用との報告あり)不適5α還元を受けない設計で、従来のテストステロンより前立腺・脱毛リスクが低い可能性がある。臨床データは限定的。[16][17]

SARMs

SARMsは、AASと同じ「DHT化するかどうか」では評価しません。非ステロイド性でもARに作用するため、頭皮リスクはゼロではなく、成分ごとのAR刺激、抑制、使用量で見方が変わります。[8]

薬剤名脱毛リスクAAR5αリダクターゼ阻害薬特徴・詳細
RAD-140中程度該当なし不適非ステロイド性SARMで、AASのようなDHT化では評価しない。AR刺激が強い成分として扱われ、AGA素因がある人では頭皮リスクを切り離せない。[8]
S-23中程度該当なし不適強いAR刺激と強いHPTA抑制が問題になるSARMで、DHT生成を下げる薬では対策にならない。[8]
YK-11不明〜中不明不適SARMとして語られるがデータが限られ、頭皮リスクも確立していない。AR関連成分として保守的に見る。[8]
リガンドロール(LGD-4033)不明〜中該当なし不適非ステロイド性SARMで、DHT化ではなくAR刺激と内分泌抑制を軸に見る。[8]
オスタリン(MK-2866)不明〜中該当なし不適比較的マイルドに語られやすいが、ARに作用する以上、AGA素因がある人では脱毛リスクをゼロ扱いしない。[8]
アンダリン(S4)不明〜中該当なし不適DHT生成ではなくAR刺激として評価する。視覚症状など別の有名なリスクもあり、脱毛対策薬で単純に処理する薬剤ではない。[8]

5αリダクターゼ阻害薬が効く薬剤と効きにくい薬剤

フィナステリドやデュタステリドは、テストステロンからDHTへの変換を抑える薬です。したがって、主因がDHT生成なら理屈が合いますが、薬剤自体がDHT由来である場合や、DHTではない強いAR刺激が主因の場合は限界があります。[5][6]

主因代表薬5αリダクターゼ阻害薬判断
テストステロンのDHT化テストステロン、テストステロンエステル有効DHT生成を下げる余地がある
DHT由来薬ドロスタノロン、メステロロン、スタノゾロール、メテノロン不適変換前からDHT系で、酵素阻害では消えない
強い19-nor系AR刺激トレンボロン、メトリボロン、ミボレロン不適DHT生成ではなく薬剤本体のAR刺激が主因
ナンドロロンのDHN化ナンドロロン併用注意弱いDHNへの変換を妨げ、頭皮リスクを上げ得る
非ステロイド性AR作動SARMs不適AAS型のDHT生成では評価しない

この区別を外すと、DHT誘導体を使いながらフィナステリドで守る、トレンボロンを使いながらデュタステリドで守る、といった噛み合わない設計になります。

出典

  1. Endotext: Androgen Physiology, Pharmacology, Use and Misuse (Endotext / NCBI Bookshelf / Overview)
  2. Endotext: Androgen Physiology: Receptor and Metabolic Disorders (Endotext / NCBI Bookshelf / Overview)
  3. Kicman AT. Pharmacology of anabolic steroids (British Journal of Pharmacology / 2008 / Overview)
  4. Kaufman KD, et al. Finasteride in the treatment of men with androgenetic alopecia. Finasteride Male Pattern Hair Loss Study Group. J Am Acad Dermatol. 1998;39(4 Pt 1):578-589. (PubMed / NLM / Overview)
  5. DailyMed: Finasteride tablet (DailyMed / NLM / Overview)
  6. Clark RV, et al. Marked suppression of dihydrotestosterone in men with benign prostatic hyperplasia by dutasteride, a dual 5alpha-reductase inhibitor. J Clin Endocrinol Metab. 2004;89(5):2179-2184. (PubMed / NLM / Overview)
  7. Bauer ER, et al. Characterisation of the affinity of different anabolics and synthetic hormones to the human androgen receptor, human sex hormone binding globulin and to the bovine progestin receptor. APMIS. 2000;108(12):838-846. (PubMed / NLM / 2000 / Overview)
  8. NCBI Bookshelf: Selective Androgen Receptor Modulators (NCBI Bookshelf / Overview)
  9. Sala G, Baldratti G. Myotrophic (Anabolic) Activity of 4-Substituted Testosterone Analogs. Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine. 1957. (DOI / Overview)
  10. Saunders FJ, Drill VA. Androgenic and Myotrophic Activity of Some Androstanolone Esters. Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine. 1957. (Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine / 1957 / Androstanolone rat assay)
  11. PubChem: Furazabol (PubChem / NCBI / Overview)
  12. Miyake T, Tanabe M, Yasuda M, Sakai K, Uchida K, et al. Pharmacological Studies on Anabolic Steroids. (I). Anabolic and Androgenic Activities of Androfurazanol, A New Active Anabolic Steroid. Chemical and Pharmaceutical Bulletin. 1965. (Chemical and Pharmaceutical Bulletin / 1965 / Androfurazanol rat assay)
  13. Pavlatos AM, et al. Review of oxymetholone: a 17alpha-alkylated anabolic-androgenic steroid. Clin Ther. 2001;23(6):789-801. (PubMed / NLM / Overview)
  14. Konishi H, et al. A case of advanced breast cancer successfully treated with combined tamoxifen and epitiostanol. Gan No Rinsho. 1988;34(8):1025-1030. (PubMed / NLM / Overview)
  15. Murthy LR, et al. Characterization of steroid receptors in human prostate using mibolerone. Prostate. 1986;8(3):241-253. (PubMed / NLM / 1986 / Overview)
  16. Attardi BJ, et al. Potent synthetic androgens dimethandrolone and 11beta-methyl-19-nortestosterone do not require 5alpha-reduction to exert maximal androgenic effects. J Steroid Biochem Mol Biol. 2010;122(4):212-218. (DOI / Overview)
  17. Thirumalai A, et al. Effects of 28 Days of Oral Dimethandrolone Undecanoate in Healthy Men: A Prototype Male Pill. J Clin Endocrinol Metab. 2019;104(2):423-432. (PubMed / NLM / Overview)