イブタモレン(MK-677)

基本情報

構造

イブタモレンの構造式
分子式
C27H36N4O5S
分子量
528.7 g/mol
分類
非ペプチド型グレリン受容体作動薬(GH分泌促進薬)

性質

投与経路
経口
作用機序
グレリン受容体(GHS-R)への結合によるGH分泌刺激
半減期
約24時間 [1][2]
主な作用
GHおよびIGF-1の分泌増加、食欲増進、睡眠の質向上

歴史

誕生

イブタモレン(Ibutamoren、開発コード:MK-677)は、1990年代にメルク(Merck & Co.)によって開発されました。成長ホルモン(GH)の分泌を促す「成長ホルモン分泌不全症」や「加齢に伴う筋量低下(サルコペニア)」、あるいは「脆弱な高齢者の骨折回復」を目的とした治療薬として研究されました。[1][3]

医療研究

臨床試験では、経口投与により健康な高齢者や成長ホルモン分泌不全の子供において、血中のGHおよびIGF-1レベルを有意に上昇させることが確認されました。しかし、身体機能の劇的な改善には至らなかったことや、特定の副作用(心不全リスクなど)の懸念から、最終的に一般的な医薬品としての承認には至っていません。[2][4]

ボディビル

その「経口で摂取可能」「注射不要でGHを増やせる」という利便性から、SARM(選択的アンドロゲン受容体調節薬)と並んで人気の高い薬剤となりました。実際にはアンドロゲン受容体(AR)には作用しませんが、減量中の筋量維持や、増量期の食欲増進を目的に広く利用されています。[2]

特徴とリスク

特徴

イブタモレンの最大の特徴は、空腹ホルモンとして知られる「グレリン」を模倣することで、自然なパルス(拍動)を保ったままGH分泌を高める点にあります。

  • 経口活性: ペプチド型のGH分泌促進薬(CJC-1295等)が注射を必要とするのに対し、イブタモレンは1日1回の経口摂取で24時間効果が持続します。[1]
  • 食欲の劇的な増進: グレリン受容体を刺激するため、服用後1時間以内に強い空腹感を感じることが一般的です。これは、食事量を増やす必要がある増量期の競技者にとって大きなメリットとなります。[3]
  • 睡眠の質と回復の向上: 多くのユーザーが、深い眠りと翌朝の疲労回復感の向上を報告しています。これは、GHレベルの上昇が睡眠サイクルに寄与するためと考えられています。[2]
  • 筋肉の張りと骨密度: IGF-1レベルの上昇により、筋肉の張りが良くなり、長期的には骨密度の向上も期待されます。[4]

リスク

インスリン感受性の低下

GHレベルの上昇に伴い、血糖値(空腹時血糖およびHbA1c)が上昇しやすくなります。長期間の使用は糖尿病のリスクを高めるため、血糖値の定期的なモニタリングや、糖質制限、メトホルミンの併用などが考慮されることがあります。[1][4]

水分貯留と浮腫

服用初期に、足首や手のむくみ(浮腫)が現れることが非常に多いです。これは数週間で落ち着くことが多いですが、血圧上昇のリスクを伴います。[3]

手のしびれ

水分貯留により神経が圧迫され、手根管症候群に似た「手のしびれ」が生じることがあります。

倦怠感(レサジー)

一部のユーザーは、日中の強い眠気や倦怠感を感じることがあります。これを避けるために、就寝前に服用する手法が一般的です。

競技規制上の扱い

WADA禁止表では、イブタモレンは「S2. ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」の中の「成長ホルモン分泌促進薬(GHS)」および「その模倣物質(例:イブタモレン)」として、競技会時・競技会外ともに禁止されています。[5]

出典

  1. PubChem: Ibutamoren mesylate (PubChem / NCBI / Overview)
  2. Svensson J, et al. Two-month treatment of obese subjects with the oral growth hormone (GH) secretagogue MK-677 increases GH secretion, fat-free mass, and energy expenditure. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism. 1998;83(2):362-369. (DOI / Overview)
  3. Codner E, et al. Effects of oral administration of the growth hormone secretagogue MK-677 on growth hormone secretion and growth velocity in patients with growth hormone deficiency. Pediatrics. 2001;108(3):683-691. (DOI / Overview)
  4. Murphy MG, et al. MK-677, an oral growth hormone secretagogue, improves sleep quality in man. Neuroendocrinology. 1998;67(1):34-40. (DOI / Overview)
  5. World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview)
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