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脱毛(AGA)の仕組みとAAS/SARMsの影響

男性型脱毛症(AGA)は、DHT(ジヒドロテストステロン)が多いからハゲるという話ではありません。
DHTだけが原因なら、アンドロゲンレベルが高い20歳前後で全員が同じように一気に薄くなるはずですが、実際には30代以降に徐々に進行する人が多いです。

AGAではDHTとAR(アンドロゲン受容体)が起点になります。
ただし、髪が細くなって抜けるまでには、真皮乳頭細胞の反応、炎症サイトカイン、酸化ストレス、線維化、加齢による全身の炎症状態が重なります。[1][2][3]

AGAで髪が抜ける仕組み

DHTはAGAの入口です。
DHTが毛包のARに結合し、その刺激を真皮乳頭細胞が受けることで、毛包上皮に向かう指令が変わります。
その結果、成長期が短くなり、毛包が小さくなり、太い毛が細い毛に変わっていきます。[4][5][1]

DHTはAR結合の起点

DHTは、テストステロンが5α還元酵素によって変換されてできる強いアンドロゲンです。
DHTはテストステロンよりARへの結合が強く、標的組織で局所的に作用します。

頭皮の前頭部や頭頂部では、DHTが毛包の真皮乳頭細胞にあるARへ作用し、成長期を短くしながら毛包を小さくしていきます。[4][6][7]

毛包が小さくなると、太く長い終毛が少しずつ細い軟毛へ変わります。
初期には「抜け毛の本数」よりも、抜けた毛が細い、短い、生え際の密度が薄い、頭頂部の地肌が透ける、といった変化が先に目立ちます。

この変化は一度に起きるものではありません。
ヘアサイクルをまたいで進むため、数週間単位の抜け毛だけではなく、数か月単位の写真変化と毛の太さを見る方が実態に近くなります。[7][8]

炎症とAGAの進行

DHTがARに結合した後、真皮乳頭細胞ではTGF-beta1、DKK-1、IL-6などのシグナルが増えます。
TGF-beta1はケラチノサイト増殖を抑え、DKK-1は毛包ケラチノサイトのアポトーシスに関わり、IL-6は毛幹の伸長とmatrix cell増殖を抑えることが示されています。[9][10][11]

この流れには酸化ストレスも入ります。
アンドロゲンによるTGF-beta1誘導には活性酸素種(ROS)が関与するという報告があり、DHT/AR刺激は単純な受容体結合だけではなく、炎症と酸化ストレスを介して毛包環境を悪くします。[12]

AGAは瘢痕性脱毛症そのものではありません。
それでも、男性型脱毛の頭皮では毛包周囲の炎症細胞浸潤や、線維性トラクト内の肥満細胞増加が報告されています。
また、AGAの早期病変ではTNFやCASP7など、炎症やアポトーシスに関連する遺伝子発現の変化も見られます。[2][13]

つまり、AGAはDHTがARに結合した瞬間に毛が抜ける現象ではありません。
DHT/ARをきっかけに、炎症、酸化ストレス、アポトーシス、線維化が重なり、毛包が太い毛を維持できなくなります。

ハゲる部位とハゲない部位

同じ血中DHTでも、全員が同じ速度で脱毛するわけではありません。
AGAでは、頭皮の毛包がアンドロゲン刺激にどれだけ反応するかに個人差があります。
前頭部と頭頂部が薄くなりやすく、後頭部や側頭部が残りやすいのは、部位ごとに毛包の反応性が違うためです。
実際に、balding scalp由来の真皮乳頭細胞では、non-balding scalp由来の細胞よりAR量が高いことが報告されています。[5][14][1]

この部位差があるため、血中DHTが同じでも、前頭部と頭頂部だけが薄くなり、後頭部が残るというAGA特有の形になります。
血中ホルモンだけでなく、毛包ごとのAR量、5α還元酵素、AR共活性化因子、炎症反応の強さが組み合わさって、薄くなる場所と残る場所が分かれます。[1]

脱毛(AGA)の真の原因

DHTだけでは説明できない

血中Tは若年成人期に高く、その後は加齢、体脂肪、慢性疾患、薬剤、測定条件の影響を受けながら下がりやすくなります。
Tが下がれば5α還元酵素の基質も下がるため、血中DHTだけが年齢とともに一方的に強くなる、という単純な見方は成り立ちにくいです。
13,152人の男性外来データベースからfree Tとfree DHTの年齢推移を見た報告でも、free DHTはfree Tと似た推移を示し、free DHT/free T比は20歳前後から老年期まで大きく変わらないとされています。[15][16]
血中T/DHTは、AGAが増えやすい年齢に向かって単純に上がり続けるわけではありません。[16]

年齢別の血中T/DHT

ホルモンピークの時期と、AGAが見えやすくなる時期は一致しません。

それでもAGAは年齢とともに進むことがあります。
これは、血中T/DHTの絶対値だけで毛包反応が決まらないためです。
毛包ごとのAR量、5α還元酵素活性、AR共活性化因子、炎症と線維化の蓄積、ヘアサイクルの反復が合わさると、若年時のホルモンピークを過ぎてもミニチュア化は進みます。[1][14]

若い時点で急速に薄くなる人は、血中ホルモンだけでなく毛包側の素因が強いと見る方が自然です。
一方で、同じような血中T/DHTでも進行しにくい人がいるのは、AR結合後の炎症やアポトーシスの出方が同じではないからです。

ARは発毛因子でもある

ARは本来、毛を抜くためだけの受容体ではありません。
頭皮の毛包でも、ARは成長期と休止期の真皮乳頭細胞に確認されており、アンドロゲンは真皮乳頭を介して毛成長を調整します。[17]

毛包の再生は、真皮乳頭細胞からバルジ領域の毛包幹細胞へ届くシグナルで始まります。
Wnt/β-cateninは毛成長を促す主要経路で、AGA患者由来の真皮乳頭細胞では、アンドロゲン刺激がこの経路を乱し、毛包幹細胞の分化を妨げることが示されています。[18]

つまり、髪の成長にもARを含む真皮乳頭の制御が入ります。
問題はARの存在ではなく、AGA頭皮でDHT/AR刺激が成長維持のシグナルを保てず、ミニチュア化側のシグナルを強めることです。
実際に、AGAではARがmiR-221の転写を促し、IGF-1発現を下げ、真皮乳頭細胞のMAPK経路と真皮鞘細胞のPI3K/AKT経路を弱める流れが報告されています。[19]

そのため、ARは単純な脱毛スイッチではありません。
AR刺激で毛を太く保つ力より、炎症、酸化ストレス、退行期誘導、線維化によって毛包を弱らせる力が上回ると、AGAとして見える変化が進みます。

内臓機能と炎症の関係

AGAが30代以降に進みやすいことは、血中T/DHTだけでは説明しにくいです。
一方で、加齢による身体側の変化とは時期が重なります。
生理機能は多くの臓器系で30歳頃から低下し始め、肝臓や腎臓でも容量、血流、ろ過能力が年齢とともに落ちることが報告されています。[20][21][22][23]

年齢別の腎機能と肝容積

20代を100に置くと、平均eGFR、実測GFR、肝容積はいずれも高齢側で低くなります。[21][22][23]
若年時のホルモンピークとは逆方向に、身体側の予備力は落ちていきます。

加齢では、臓器の予備力低下と慢性炎症が同時に進みます。
老化は全身性の慢性炎症、細胞老化、免疫老化、臓器機能低下、加齢関連疾患を伴うとされ、慢性炎症と細胞老化は互いに強め合う関係にあります。[3][24]

世代別の炎症マーカー

健康成人を年代別に分けたデータでも、CRP、IL-6、TNF-R1は高齢側で上がりやすい傾向を示しています。[25]

この話は、内臓機能の低下だけでAGAが起きるという意味ではありません。
AGAの起点にはDHT/ARがあり、毛包側の素因も必要です。
ただし、全身の慢性炎症が強くなると、AGA頭皮で起きているIL-6、TNF、ROS、TGF-beta系、線維化の流れが悪化しやすくなります。[11][13][12]

健康管理でジョギングを始めたら髪の状態がよくなった、という話は、ARを増やして髪を生やしたというより、炎症負荷が下がった説明の方が自然です。
有酸素運動は中高年でCRP、TNF-alpha、IL-6を下げる可能性が示されており、運動習慣による抗炎症作用も報告されています。[26][27]

AGAは「ARがあるから抜ける」ではなく、「AR刺激で保たれる毛包の働きより、炎症で毛包が弱る流れが強くなったときに進む」と見る方が実態に近くなります。

AAS/SARMsによるAGA進行

AASやSARMsを使う場面では、この仕組みの上に外因性アンドロゲンと強いAR刺激が重なります。
薬剤ごとの強弱だけではなく、毛包側にどれだけAGA素因があるか、すでにミニチュア化が始まっているかで見え方が変わります。[28][29]

AAS/SARMsはAGAを加速させる

AASやSARMsは、AGAと別の脱毛メカニズムを新しく作るというより、AGAの経路に入るAR刺激を増やす薬剤です。
毛包側にAGA素因がなければ、強いAR刺激があっても全員が同じように薄くなるわけではありません。
一方で、前頭部や頭頂部の真皮乳頭がAR刺激に反応しやすい人では、外因性のAR刺激が既存のミニチュア化経路を進めます。[1][14][28]

ここでの入力は、血中T/DHTの単発値ではありません。
テストステロンから作られるDHT、薬剤本体のAR作動、活性代謝物、用量、期間が合わさって、毛包ARへの刺激量になります。
その刺激を真皮乳頭がどう処理するかで、TGF-beta1、DKK-1、IL-6、炎症・線維化の下流反応が変わります。[4][9][10][11]

血中T/DHTが低くてもAR刺激は残り得る

通常の生理状態では、Tが下がればDHTの材料も下がります。
そのため、血中T/DHTだけを原因に置くと、加齢でホルモンが落ちてもAGAが進むことや、DHT生成を大きく増やさない薬剤でも頭皮リスクが残ることを説明しにくくなります。

AAS/SARMsでは、この前提がさらに崩れます。
内因性T/DHTが抑制されても、外から入れたAR作動薬が残っていれば、毛包ARへの入力は残ります。
SARMsも非ステロイド性であってもARに作用するため、DHT生成量だけでは頭皮への作用を評価できません。[29]

この見方にすると、AAS/SARMs時の脱毛は「DHTが増えたか」ではなく、「AR刺激がどの形で毛包に届いたか」という問題になります。
DHTは重要な入力の一つですが、唯一の入力ではありません。

5αリダクターゼ阻害薬は入力を一つ減らす薬にすぎない

フィナステリドやデュタステリドは、テストステロンからDHTへの変換を下げる薬です。
テストステロン由来のDHTが主な入力なら、この作用点は理屈に合います。[30][31]

しかし、5αリダクターゼ阻害薬はARを塞ぐ薬ではありません。
AR結合後のTGF-beta1、DKK-1、IL-6、炎症・線維化を直接止める薬でもありません。
DHTではないAR作動薬が残る場合、DHT生成だけを下げても毛包ARへの入力は残ります。

そのため、AAS/SARMs使用時の脱毛は「DHTを下げたか」だけでは足りません。
毛包ARへの入力が何で、どれだけ残っていて、その毛包がどれだけ反応しやすいかまで見ないと、前半のAGAメカニズムとつながりません。
薬剤ごとの違いは薬剤別脱毛リスク比較で詳しく説明しています。

出典

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