SARMsはAASではない。
ただし、AASではないことは、アンドロゲン系のリスクから外れることを意味しない。
SARMsとAASは、どちらもアンドロゲン受容体(AR)に関係する。
筋肉や骨への作用はARを介したシグナルと接続する[1][2]。
そのため、SARMsでもHPTA軸抑制、脂質変化、肝機能、心血管への影響が評価対象になる。
まず分ける軸
| 項目 | AAS | SARMs |
|---|---|---|
| 代表構造 | テストステロン、DHT、ナンドロロンなどのステロイド性アンドロゲン | 非ステロイド性の小分子として研究された成分が多い |
| 作用点 | AR | AR |
| アロマ化 | テストステロン系の主な論点 | AASと同じ意味では評価しない |
| DHT変換 | テストステロン系の主な論点 | DHT変換主軸では評価しない |
| HPTA軸 | 強く抑制されやすい | 成分、量、期間により抑制が出る |
| 肝機能 | 経口AASで特に重い | 経口SARMsでも異常報告がある |
| 競技規制 | WADA禁止対象 | WADA禁止対象 |
AASでは、ステロイド骨格、エステル化、17αアルキル化、アロマ化、DHT変換が主要な分類軸になる。
SARMsでは、AASと同じ化学構造や代謝では評価できない[1][2]。
「AASより安全」とは言い切れない
SARMsでは、AASのようなアロマ化やDHT変換を主軸にはしない。
この点だけなら副作用が少ない印象になりやすい。
しかし、SARMsもARに作用する。
テストステロン、LH、FSH、SHBG、脂質、肝機能の変化は追跡対象である[1][3]。
臨床試験ではALT上昇やHDL低下が報告され、自己使用の症例では胆汁うっ滞性黄疸を含む肝障害例が示されている[1]。
FDAは、SARM含有製品について心筋梗塞、脳卒中、睡眠障害、性機能障害、肝障害、急性肝不全などの可能性を警告している[4]。
AASとSARMsで違う副作用評価
| 評価項目 | AAS | SARMs |
|---|---|---|
| 女性化乳房 | アロマ化、E2、19-nor系 | 直接のアロマ化ではなく内分泌変化や併用品 |
| 脱毛・皮脂 | DHT変換、DHT系AAS、AR刺激 | AR刺激と個人のAGA素因 |
| 肝機能 | 17αアルキル化経口AASが主な論点 | 経口成分としてALT、AST、ビリルビン |
| 脂質 | 経口AASやDHT系で重くなりやすい | HDL低下を軽視できない |
| HPTA抑制 | ほぼ主論点 | 抑制なしとは言えない |
| 長期データ | 古い薬剤ほど蓄積が多い | 成分ごとに限定的なものが多い |
SARMsは「E2が上がりにくいから安全」と単純化されやすい。
しかし、E2関連の問題が比較的目立ちにくいとしても、HPTA抑制、脂質、肝機能、製品品質、競技規制が残る。
製品品質の問題
SARMs市場では、表示成分、含有量、未表示成分の問題が大きな論点である。
インターネット上でSARMとして販売された44製品の分析では、表示と含有内容が一致しない製品、別成分を含む製品、SARMではないibutamoren、GW501516、SR9009を含む製品が見つかっている[5]。
これは、薬理分類の問題だけでなく、実際に摂取しているものが分からないというリスクである。
AASとSARMsのどちらが安全かを比べる前に、未承認・研究用として流通する製品では品質管理そのものが不確実になる。
競技規制
WADA禁止表では、SARMsはS1.2のその他のアナボリック薬に含まれ、競技会時・競技会外ともに禁止される[6]。
AASも同じくアナボリック薬として禁止対象である。
「AASではないから検査で問題にならない」という理解は誤りである。
競技者では、薬理上の安全性だけでなく、検査陽性、サプリ汚染、未表示成分、団体規定まで含めた評価になる。
比較軸
| 評価項目 | 評価の方向 |
|---|---|
| ホルモン変換 | AASはアロマ化やDHT変換、SARMsは同じ変換軸ではない |
| 抑制 | どちらもHPTA軸が評価対象 |
| 肝機能 | 経口AASだけでなく、経口SARMsでもALT、AST、ビリルビン |
| 脂質 | HDL低下など、心血管リスクに接続する変化 |
| 長期データ | AASは薬剤ごとに蓄積が異なり、SARMsは限定的 |
| 製品品質 | 未承認・研究用流通では表示内容と実物のズレ |
AASとSARMsの違いは、リスクがあるかないかではなく、どの分類軸でリスクを評価するかである。
SARMsはAASではない。
ただし、アンドロゲン受容体に関係する以上、ホルモン、脂質、肝機能、心血管、競技規制から切り離せない。
AASではないことのメリットと限界
SARMsがAASではないことには、薬理上の意味がある。
アロマ化やDHT変換をAASと同じ軸で評価しない点は、たしかに違いである。
しかし、この違いは「副作用がない」という結論にはつながらない。
| SARMs側の違い | 利点に映る点 | 残る限界 |
|---|---|---|
| 非ステロイド性 | AASとは構造が違う | AR作用とHPTA抑制は残る |
| アロマ化を主軸にしない | E2由来症状が目立ちにくい場合がある | 内分泌変化や併用品で乳腺症状が起こり得る |
| DHT変換を主軸にしない | DHT由来の評価とは違う | AR刺激とAGA素因は残る |
| 経口で使われやすい | 注射管理がない | 肝機能、脂質、製品品質の問題 |
| 研究段階の成分が多い | 新しい印象がある | 長期安全性と実流通品質が弱い |
SARMsの評価では、AASとの違いを認めたうえで、同じAR系の薬剤として抑制、脂質、肝機能を外さない評価が要る。
SARMsで見落とされやすいリスク
SARMsは「アロマ化しない」「DHT化しない」という説明だけが先行しやすい。
その結果、検査項目や製品品質が軽視されることがある。
| 見落とし | 実際に残る論点 |
|---|---|
| PCT不要という理解 | 成分、量、期間によってHPTA抑制が出る |
| 肝臓に軽いという理解 | ALT、AST、ビリルビンの異常報告がある |
| 脂質に軽いという理解 | HDL低下が問題になる |
| 正規成分が入っている想定 | 表示成分と含有量の不一致が報告されている |
| 競技で安全という理解 | WADAではS1.2の禁止対象 |
SARMsをAASの代替として単純に置くと、違う種類の不確実性を見落とす。
構造上の違いと安全性の違いは、同じ意味ではない。
関連ページ
- SARMsとは
- AAS/SARMsの副作用と対策
- ホルモン抑制の強さで見る薬剤比較
- 心血管リスクで見る薬剤比較
- 肝臓への影響の横断解説
- Cardarine、MK-677、SR9009はSARMsなのか
出典
- NCBI Bookshelf: Selective Androgen Receptor Modulators (NCBI Bookshelf / Overview) ↩
- Endotext: Androgen Physiology, Pharmacology, Use and Misuse (Endotext / NCBI Bookshelf / Overview) ↩
- Basaria S, et al. The Safety, Pharmacokinetics, and Effects of LGD-4033, a Novel Nonsteroidal Oral Selective Androgen Receptor Modulator, in Healthy Young Men. The Journals of Gerontology: Series A. 2013;68(1):87-95. (academic.oup.com / Overview) ↩
- FDA: Certain bodybuilding products put consumers at risk for heart attack, stroke, serious liver damage and more (fda.gov / 2025 / Overview) ↩
- Van Wagoner RM, et al. Chemical Composition and Labeling of Substances Marketed as Selective Androgen Receptor Modulators and Sold via the Internet. JAMA. 2017. (jamanetwork.com / Overview) ↩
- World Anti-Doping Agency: 2026 Prohibited List (World Anti-Doping Agency / Overview) ↩